【17号書評】<5300字> 世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事(津川友介)

Pocket

 

You are what you eat.

あなたが食べるものこそがあなたである。英語にはこういうシャレた表現がある。<eat>の部分には他にもいろんな動詞を入れることがあって、たとえば読書が好きな人にとっては <read>がしっくりくるだろうし、踊りが好きな人は<dance>、ファッションを愛している人ならなんの衒いもなく<wear>と言うだろう。口先ばかりで行動しない人間を戒めるときは、強い口調で<do>や<practice>を入れることもある。しかしこれらの動詞が軒並み精神的な人間観を表現しているのに対して、<EAT>は極めて物質的な観点に立っているという点で他のものとは一線を画している。食べた物の栄養素は消化器系で吸収分解されてあなたの身体の一部になる。あなたを動かす活力の源になる。こういう物質還元的な考え方にはロマンがないと言うだろうか?しかるに多彩な精神活動を担っているとされる脳だって物質の集まりには違いないのだし、あなたの本体はこの身体なのだということを忘れてはいけないだろう?

 

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事
東洋経済新報社 (2018-04-13)
売り上げランキング: 22

というわけで月並みな前置きになってしまったが、今回は最近発売されたばかりのフレッシュな本を紹介したい。『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』著者はアメリカはUCLA大学の助教授の方らしい。タイトルを見ただけでもかなり戦略的に売り出されていることがわかるが、実際に読んでみるとその戦略の詳細はさらに明らかになる。TwitterなどのSNS上では今かなり話題になっているし、ちょっと前は「白米が健康に悪い」という著者の主張が取り上げられてプチ炎上を起こしていた。

最先端の医学では「白米は健康に悪い」が常識だ
UCLA医学部助教授が教える「不都合な真実」
https://toyokeizai.net/articles/-/215982

 

本書の内容

とにかく本書の目的はシンプルである。

どのような食事をすれば脳卒中、心筋梗塞、がんなどの病気を減らし健康を維持したまま長生きできる確率を上げることができるかを説明することである。


また以下が著者の想いである。

正しい情報がないために知らず知らずのうちに病気に近づいてしまうような選択を積み重ね、何十年後に脳梗塞やがんになってはじめてそれを自覚する。それではあまりに不幸ではないか。そういった人を一人でも減らしたい、多くの人に自分の意志で健康になるか、それとも病気になるかを選択する力を持っていただきたい。それが私が筆をとることにした最大の理由である。

 

つまり本書では、人間が人生の終わりに遭遇しやすい脳卒中や心筋梗塞・がんなどの大病を予防するための食事とはどういうものかが書かれている。著者は日々の食事が人体に及ぼす長期的な影響を憂慮しているのだまた本書は健康のための本であって、異性の目を喜ばせるような美しさを身につけることを目指した本ではない。そういうわけで対象が非常にシンプルに限定されている。

 

健康にいいとはどういうことか?

健康の概念がある程度定まったならば、次は「健康にいい食事とは何か」である。驚くべきことに、本書には生理学や栄養学的なメカニズムの説明が一切ない。ここに本書の大きな特徴がある。いい機会だったので、本書の他にも並行していろんな類似の「食事と健康」に関する本を読んでみたのだが、多くの健康本は食事と健康を因果関係で説明を試みようとしている。いわく「Aを摂取するとBの値が上がり、Bの値が慢性的に高いとC病にかかりやすいから、AはC病の原因である。よってAは健康に悪い」「Aを摂取するとBの値が上がるが、Cを1日にDグラム以上摂取しつづけるとEの値は抑えられるので、Fを摂取するなら同時にGを摂取しないといけない。またHはIがなくては気持ち良さが半減する」とか。うるせーよ。オナニーでもしてろ。そういう断定的な語り口でHUMAN BODY語ってんじゃねえよという。クレームをつける人もいそうだ。

また自分自身の経験を語っただけのような本も多い。いわく「わたしは1日一杯のAO汁を毎朝必ず摂取していて80年間大病を患うこともなく生きてきました。それゆえにAOジルは健康にいいに決まっています!」みたいなね。これは恋愛やナンパの分野でもあるあるのネタである。情報リテラシーの高い人には「根拠を示せ」「おまえの話をi般化すんなよ」で切り捨てられて終わりのやつだ。個人的に「長生きしたけりゃ日々のウンコを観察せよ!」とか「神社にお参りに行った日は必ず即れるので神の加護は必ずある」というような我流の健康論やナンパ論は大好物なのだが、どうやら真に受けてしまう人も多いらしい。また極めつけは世間で常識的に言われていることとは逆のことを言って注目を浴びようとする猛者もいる。「野菜がいつかあなたを殺す」とか「餓死してからの健康法」とか。ありそう。ないか。

 

そういったものとは対照的に、本書はすがすがしいほど「因果の説明」も「個人の体験談」もない。では著者の主張の説得力は何によって高められているかというと、エビデンスである。

エビデンスとは何か。それは相関の高さを表すものである。たとえば、、

「報告します。アホの人間どもの集団をA,B2つのグループにパリッと分けてAグループには白米食わせ続けました!Bグループには白米全く与えてやりませんでしたわ。その結果Aグループのほうが○○病発症の確率が明らかに低かったよ!」

「A,B2つのグループに分けてAグループには白米を1日10杯、Bグループには3杯食わせ続けました。その結果○○発症率はどちらのグループもあんまり変わらなかったよ!ただしAのグループは数人発狂しましたことも併せて報告いたします」

食品が人体にどういったメカニズムで作用するのかはブラックボックスのままにしておいて、とにかく結果だけに注目する。そうすると「ある食事」と「健康状態」との密接な関係が浮き彫りになったりしてくるわけだ。それをエビデンスというのである。著者は「食事」と「健康」に関するこういった先行研究の膨大な集積を読み解いて、非常にわかりやすい形でまとめてくれている。そのうえで日々の食事についてのアドバイスを取り入れやすい形でしてくれているのだ。

著者の主張は一枚の図に極めてシンプルにまとめられている。

この表を読んでもらえると早いが、グループ1がいろんな研究から高い根拠でもって「健康にいい」とされているグループである。グループ5がその反対に悪いグループである。そういうわけで、「日々の食事にグループ1の食べ物をなるべく取り入れて、グループ5の食べ物をなるべく避けましょうね。そうしたら、まあ将来大病患いにくいんじゃない?」という非常にシンプルな結論にいたるわけだ。この1枚の表にこれまでの先人たちの研究成果がギューっと凝縮されて詰まっているのである。

さらに言うと目次を眺めているだけでも、著者のコアの主張はすべて頭に入ってくるようになっているという素晴らしい御本である。

第1章は総論。
第2章はグループ1(健康にいいという根拠のある食事)について。
第3章はグループ5(健康に悪いという根拠のある食事)について。

以上。非常に美しい構成だ。

だらだらと紹介することでこの極めて完成度の高いシンプルな本書の構成を台無しにしたくはないので紹介は以上にしておきます。以下は読後の率直な感想。

 

読後の感想

  • 著者は日本人の食事に対する意識をガッツリ変革しようとしているようだ。大きな意欲が伝わってくるし、普及のための戦略も(まだ一端しか垣間見えてはいないが)かなり洗練されたものだと思う。今アメリカの先進的な所では「エビデンス」の発想が常識になりつつあるのだろう。「最先端の科学的知見」という防具をひっさげ、さらには「ハーバード」や「UCLA」という権威の杖を掲げ、彼はこの日本で健康と食事に関するエヴァンジェリストの役割を担おうとしているにちがいない。飯ザビエルである。これから国内の農業団体や牛肉団体と正面からドンパチやる気概もあるのかもしれない。しかしそういうエヴァンジェリストたちに特有の押しつけがましさは不思議とない。彼は著書の中でしっかりと「健康」以外の価値についても認めている。彼はあくまで科学的に正しい情報を一般の人たちに向けて提示して、まずは彼らの選択肢を広げることにのみ焦点をあてているのだろう。


  • 一方で「情報が透明になったり選択肢の幅が広がることで、人間が自分にとってよりよいものを選択をしていけるようになる」という著者の信念にはぼくはかなり否定的である。これがあてはまるのは「意志の強さ」を兼ね備えた人たちだけだろう。というわけで<情報や科学のリテラシーが高く>かつ<自分自身をしっかりコントロールする訓練を積んだ>一部のエリートたちの間でのみ本書の内容は実践され普及していくのではないだろうか。それ以外の多くの人たちは大きな権威でもって「よりよいもの」が目の前に提示されたとしても、それを掴み取ることはほとんどない。ふだんの習慣や目先の欲望のほうに執着するからである。本当に日本全体をあまねく啓蒙したいのなら、庶民にまで浸透するような一手が必要になってくるはずだ。行政の力を借りて多少強引にやっていくことも必要かもしれない。しかし日本人から白米を少しずつとりあげていくって途方もない道のりだ。。

日本でも以前は、食事の摂取量を減らしてがまんさせる「根性論的な食事指導」が行われていた時代がある。しかしながら、数多くの行動科学の研究から、がまんさせることは正しい戦略ではないことが明らかになってきている。食事の量を減らしてもストレスになり、いずれは爆発して食べすぎてしまうことが多い。これはダイエットでリバウンドしてしまうのと同じ現象であり、多くの人が経験したことがあるのではないだろうか。このような理由から、食事量を減らしてがまんさせる食事指導よりも、食べる食品を「置き換える」指導のほうがより効果的であると近年では考えられるようになってきている。

  • たとえば彼は上のように書いている。非常にスマートだ。もし彼のチームに行動科学の専門家がスタンバっているとしたら、普及戦略はさらに素晴らしいものになりそうだ。しかし行動科学の知見だけでは人間の行動をコントロールするにはまだまだおぼつかない部分も多いと思う。

  • 自分自身はかなり影響を受けやすい人間である。しかも「健康」というわりと強烈なものを心の人質にとられているので、今のところ著者には全面降伏の構えを示している。具体的には白米が喉を通りづらくなった。そうしたら日々の合間に腹が減って気が遠のきそうになる瞬間が増えたので早急に玄米を買うことにした。ちなみに満足度は低い。これは慣れていくものなのだろうか?また先日友人と焼肉チャンピョンに行ったときも、極端な食生活になることを避けるために牛タンやハラミを注文して中和しようと思ったのだが、これもなかなか喉が通りづらく、かなり憂鬱な気分になった。これはもう間違いなく遺伝的に受け継いだ性格なのだが、つくづく融通が利かないので我ながら笑えてくる。拒食症の人の気持ちが痛いほどわかるよ。自分のそういう性格はわかっていたので、これまで健康に関する情報は基本はシャットダウンしてセルフマネジメントは最初から放棄していたが、情報を摂取してしまったものは仕方ない。事故みたいなものである。ぼくの健康状態を日々マネジメントしてくれる心の清らかな女の人a.k.aお嫁さんは随時募集中です。げらげら。



  • そういうわけで健康であることを目標にして意図的に食事をセルフ管理するというのは個人的には間違いなく悪手だなと。しかるに30を過ぎて35にさしかかるこの1年の間に、自分の身体が明らかに変化してきたのを感じている。たとえばこれまでのように暴飲暴食ができなくなってきた。寝る前に何かを食べると次の日の朝の体調が芳しくない。顕著な例としてはビールが気持ち悪くて飲めなくなってきたし、牛丼に代表されるようなファーストフードがとても不味く感じられてきた。イオンのTOPVALUブランドの食品を摂取すると身体にあまねく湿疹ができる。また使われている油によってはすぐに胃もたれを起こして極端な場合は食べた瞬間にもどすこともある。台湾なんて高級スーパーに売ってるようなステーキでも最悪だった。全体的には「不味い」と感じるものが増えてきたようだ。そういうわけで、意図せずに健康の道へと舵取られている気がする。ぼくは自分の頭は融通が利かないのであんまり信用していないのだけど、身体のほうには絶大な信頼を置いている次第だ。いわばオジサンは若者に比べて健康に関するセンサーが働くってこと。以上です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA